母校の高校にて、進路選択に生かすための職業人講座を行いました。
建築家がどんなことを考え、その考えを形や空間にしていくのか、
その他、仕事の難しさややりがいなどをお話ししました。
講座で紹介した整形外科です。
この病院では患者にとってリラックスできる空間をつくることを目指し
周辺環境を味方につけることでそれを実現したことをお話ししました。
具体的には、道路の対面にある高校の土手の緑(写真左側)を借景に使い
待合室やリハビリ室から四季折々の緑の風景を感じられるようにしています。
待合室から土手の緑を見たところ
風景をより美しく見せるため、3mの高さにある庇で風景を切り取り
窓枠や柱をできるだけ省いて風景の邪魔にならないようにしています。
柱を省略するためにトラス構造の梁(黄色の破線部分)を使い
柱を支える間隔を通常の2倍以上広げるなど
構造の工夫によって実現したことなどもお話ししました。
城ケ丘の家では、
敷地の制約を逆手にとって居心地のよい環境をつくるための
様々な工夫についてお話ししました。
こちらは敷地回りの配置図です。(灰色部分が敷地)
隣地の建物や間口の広い道路からのプライバシーが確保しにくい状況で
さらに、敷地形状が不整形で扱いにくいという制約もありました。
一方で、設計で目指したのは
上の写真のように開放感のある室内と庭が一体につながる
日本の伝統的な居住空間が持つ心地よさです。
一見、相矛盾するようなテーマですが
それを実現するために2つの建築を参考にしています。
プライバシー確保のためにヒントにしたのが中庭空間です。
スペインのアンダルシア地方には真夏の日差しを遮るために
家を囲い込み、中庭と室内を一体で暮らす伝統的な住居があります。
私もセビリアの町で実際に泊まったことがありますが
家の中と外の境界が曖昧につながった心地よさを実感しました。
今回は、この中庭を日差しの代わりに視線を遮ることに利用しています。
もう一つ、不整形な敷地への対応では
ブルガリアの山深くに建つリラの僧院を参考にしています。
リラの僧院を平面図で見ると真ん中に礼拝堂(黒い建物)があり
そのまわりを修道僧の宿所が取り囲むように建っています。
しかも、宿舎はかなり角度を振った形になっています。
その間には不整形の中庭が存在し
実際にその場に立ってみるととても動きがあり
場所ごとに見え方が変わるとても魅力的な空間でした。
2つの建築をヒントに
不整形な中庭という形式で家を配置したのがこの図です。
隣地の建物に対し
「くの字」型の母屋(白い部分)を敷地形状に合わせて置き
道路側にも離れ(茶色の部分)を配置して視線を制御しています。
ただし、日本の夏の湿度を考慮して完全な中庭にはせず
2箇所ほど切り離すことで風通しも確保しています。
道路側から見た外観です。
白い母屋と茶色の離れの間には植栽を生垣状に植えて
外からの視線を制御し、風通しは確保しています。
さらに周辺に対して緑の潤いも提供するという
一石三鳥の役割をこの植栽に託しています。
中庭空間は不整形で動きがあり、とても風通しがよいのです。
夏場は母屋と離れの間にオーニングを渡すことで快適に過ごせます。
室内から見たところ
中庭にはウッドデッキを敷き、開口部を大きくとって
室内と庭とが一体でつながる開放感のある空間を実現しました。
差し込む朝日は季節ごとに角度が変わり
四季折々の変化を感じられる居心地のよい空間です。
このように敷地の制約も積極的に受け入れながら工夫を凝らすことで
標準的な敷地以上に個性的で心地よい住まいができるのです。
設計では実現できること、できないことがそれぞれあります。
それでも、様々な工夫を重ねることによって
そこに暮らす人が人間らしく、生き生きと過ごせる空間をつくること、
それが何より重要であることを学生たちに伝えました。