主役と脇役

湯野の温浴施設では足場が解体され
ついに増築棟が外観の姿が現れました。
 
真ん中の松の大樹をシンボルツリーと見立てて
その両側の既存大浴場と増築棟がこちらに手を広げるように配置され
その後方には山並みが重なるように続いています。
 
増築棟が建つことによって明確になったランドスケープは
自然を基点にしたギリシャ的な構成にも似ています。
 
主役はあくまでこの土地がもつおだやかな自然の風情、
建築はそれを引き立てる名脇役をめざします。
 
 

浴室 左官仕上げ工事

年が明けて、湯野の現場では浴室の左官仕上げ工事が始まりました。
 
北向きの貸切風呂 月は窓の高さを低く抑えながら
全開する窓によって外庭とつながる落ち着いた空間です。
 
 
 
 
 
 
腰壁の左官仕上げ、その上の杉板の壁が貼られたところ
 
こちらはモノトーンの明るさを抑えた空間、
天窓からの光による陰影が仕上げを繊細に映し出すことを意図しています。
 
 
 
 
 
 
貸切風呂 壺の方は、円形浴槽を左官で仕上げています。
壺をイメージした平面と縁回りは丸みのある形で
手仕事で生み出されるやわらかい表情を引出すため
浴槽全体を骨材入りの人研ぎ仕上げとしています。
 
 
 
 
 
 
壁の左官仕上げ
こちらはやや明るめのベージュがかった灰色の壁に仕上げていきます。
 
 
 
 
 
 
 
貸切風呂 月の床仕上げ工事
壁と同様、明るさを抑えた黒っぽい豆砂利入りの洗い出し
 
 
 
 
 
 
左官仕上げがほぼ仕上がりました。
 
やや露出を絞って撮ったため暗く見えますが
天窓によって陰影が感じられる空間になっています。
 
 
 
 
 
 
人造石による浴槽の縁と洗い出しの床
黒を基調とし、数種類の骨材を加えることで
かすかに表情が浮かび上がるような表情が見られます。
 
 
 
 
 
 
壺の方も、最後の床仕上げが行われました。
 
こちらは一転して明るい色の床仕上げ
白を基調とした中に、同じく数種類の豆砂利で表情をつくります。
 
 
 
 
 
 
約2週間かけて浴室の左官工事がほぼ完了。
あわただしい工程の中、
枠回りとの取合いや寸法の調整などいろいろ苦労はありましたが
もっとも重要な空間は、なんとか形になってきました。
 
 

虚を実現する力 倉俣史朗のデザイン展

世田谷美術館で行われている倉俣史朗の回顧展に行ってきました。
 
デザインの仕事をする人なら知らない人はいないであろう、
それほど強く独創的な作品を世に残した倉俣史朗
 
個人的には、建築家の北山孝二郎氏のもとでの修行時代、
兄である安藤忠雄さんや三宅一生さんとともに近い関係で
常に刺激を受ける存在でしたが、1991年、56歳で早逝。
 
今回、時代を超えた普遍の強さを持つ作品群を見てきました。
 
 
 
 
 
 
週末ということもあってか、開館10分前にはすでにこの行列。
注目度の高さを改めて実感します。
 
 
 
 
 
 
今回、最初の展示室のみ撮影可能ということで
せっかくなので名作たちを記録に残してきました。
 
 
 
 
 
 
まるで線画をそのまま立体にしたような01チェアとテーブル
 
単純明快な形ながらシルエットが重なって映り込む姿がまた美しく
それもイメージとして織り込まれていたであろうと思うと改めてゾクゾクします。
 
最小限のパーツに還元しながらも決して単調ではなく
シニカルのような、それでいてユーモアも感じられるような
そしてなにより、デザインの強度がしっかりと感じられる作品です。
 
 
 
 
 
 
 
天板の丸いフレームと脚の取合い
 
デザインにおいて異なるパーツを組合わせるとき
常に明快な答えが見つからず逡巡することがありますが
さすが、こんな手があったのか!とハッと気づかせてくれる
単純なのになんともエレガントな解答です。
 
 
 
 
 
 
ガラス片を象嵌したテラゾーテーブル
 
正方形の天板と同じく正方形のやや太い脚で構成された
形態としてはいたってシンプルなテーブル
 
しかし、ガラス片をランダムに象嵌したテラゾーで成形されていて
唯一無二の表情がテーマとして強く現れています。
 
 
 
 
 
単純な造形は精緻に組み合わされることによって
強い緊張感がにじみ出しています。
 
 
 
 
 
 
TOKYO
 
イッセイミヤケの店舗でデザインされたテラゾーテーブルは
白い色と丸い形がベースになっています。
 
 
 
 
 
 
白いベースに色とりどりのガラス片が散りばめられています。
 
それらひとつひとつは単なる破片にすぎないのにもかかわらず
どうしてこんなに美しい姿になるんだろう・・・
 
まさに倉俣マジックです。
 
 
 
 
 
 
How High the Moon
 
金属メッシュによるボリューム感のある曲面がとてもエレガントです。
しかし、イスの中は空っぽというトリッキーなデザインで
空虚さと軽快さという相反する二面性がなんとも不思議です。
 
ここで使われているエキスパンドメタルというメッシュ材は
フェンスや仮設の床などに使われる無機質な工業部材ですが
倉俣の手にかかると全く異なる美へと変身してしまいます。
 
 
写真に収められたのはこの4作品だけですが
そのほかにも透明なアクリルにバラの花を閉じ込めたミス・ブランチ
透明なガラス板だけで構成されたガラスの椅子など、充実の作品群です。
 
独創的なデザインなのに風のように軽やかな倉俣史朗のデザイン、
そして、イメージを現実の形と姿に実現していく力と強い意志。
30年以上を経た今、改めて鮮烈な刺激を得ることになりました。
 
 

時は文化なり

長年続けている茶道は昨日が今年の初稽古、
先生が作ってくださった点心をいただきました。
 
仕事では常に時間に追われる日々ですが
稽古では、いつもの所作を改めて繰り返すことによって
乱れていた心が少しずつ整っていくようです。
 
速さではなく、逆にゆったりと
そしてできるだけ丁寧に所作を行う時間をかみしめていく。
 
「時は金なり」とはよく言いますが
あえて「時は文化なり」という価値を磨いていきたいですね。
 
 

豊かな時間をさらに求めて

あけましておめでとうございます
 
今日から湯野では工事が再開されました。
 
周南市の山あいに位置する湯野地域は周囲を山に囲まれた盆地で
その盆地を貫いて流れる夜市川沿いに古来より温泉が湧出し
戦前から温泉を利用した療養地として活かされてきました。
 
盆地に流れ込む雨水は田んぼを潤して
田植えの時期には一面が湖のような水面となり
青い空と雲を地上に写し込み、穏やか自然の景色が現れます。
 
この穏やかな風景は、とてもとても何気ないもので
いわゆる「絶景」とはまったく異なるものですが
その穏やかで平和な風情にこそ、この湯野の個性が潜んでいると感じています。
 
この穏やかで平和な風情を最大限に生かし
時間を気にせずゆったりと過ごせる場をめざしています。
 
昨年はチャットGPTなどAIの進化を身近に感じる年でしたが
そのスピードは、今後もさらに加速していきそうです。
 
世界では日々、大変なことが起こっていても
いちいち気にとめる余裕もないほどに時間が過ぎていきます。
 
そんな時代だからこそ、
オルタナティブとしての平和で豊かな時間がとても大切になると考えます。
 
TIMEでは、引き続きこの豊かな時間にこだわって
人間らしく過ごせる時間と場を提供していきたいと思います。
 
今年もどうぞよろしくお願いします。