確かなプライド

妻側から差し込む光によってほのかに浮かび上がる小屋組

江戸時代、幕府の天領となった高山市で、御用商人として栄えた日下部家。明治8年の大火で一旦焼失し、その後に建てられたのは、江戸期の伝統様式を生かした壮観な造りです。

 

 

高山の豪雪から屋根を支える小屋組は格子状に組まれ、赤松の巨木を使った牛梁でしっかりと支えられています。

豪商の財力と飛騨の匠によって生み出された大空間には、うわべの豪華さだけではない確かなプライドを感じられます。

 

 

 

ストイックの中に宿る美意識

深い軒がつくる陰影と木枠のあかり窓                   雪深い高山では、雪が滑り落ちないよう屋根を緩い勾配とし、軒を深くして足元を雪から守るという、この地固有の建築形態が見られます。木部には煤(すす)を混ぜたベンガラが塗られ、モノトーンながらとても美しい表情です。

 

漆黒の建物のなかに際立つ白く塗られた梁の木口              まるで紋付袴の着物のような引き締まった品格が感じられます。色も素材も形さえも自由自在に選択して表現できる今の時代にあって、ストイックに伝統的なデザインを守り続けている、その精神がなんともクールです。

 

 

 

 

まち並みのもつ価値

通り沿いに置かれた緑の鉢植え                      それぞれの家の前に置かれた鉢植えは手入れが行き届き、潤いのある気持ちのいい通りが形成されています。

まち並みというのは、みんなでつくるもの。                決して一人だけの力で生み出せるものではありません。

そこにくらす人々が美意識を共有し、日々の手入れを怠らずに継続することで成り立つもの。その協調と努力の積み重ねの総和がかけがえのない風景となって現れます。それは、単体の建築とは違う、価値の重みがあります。

 

ちなみにこちらは、2007年に訪れた南フランスのアンティーブ旧市街。石造りの古い建物が連なる細い路地には、高山と同様に、それぞれの家ごとに緑が配されて心地よい雰囲気を提供しています。

歴史や文化は違えど、美しく心地よいまち並みには、共通のエッセンスが感じられます。