引き続き熊本建築視察のレポートです。熊本城下に残る呉服町、その一角にある古い商家をリノベーションした珈琲回廊
元々の建物もなかなかの風格がありますが、その個性を殺すことなく、現代的な機能に見事に生まれ変わらせています。
お店に入ると床や壁のモルタルに褐色の骨組みが落ち着いた雰囲気を作っています。
お店の中央は吹き抜けになっていて、力強い梁の奥に小屋組を現しにした2階の空間が広がっています。
新たに加えられた吹抜け回りの手すりも古い木材と同じ色で合わせ、新旧の対比ではなく、古い空間へ合わせた統一感が意識されています。しかし、過去の質感を保ちながらも、ダイナミックな空間構成は決して保守的ではありません。
2階のギャラリー兼カフェ空間
こちらは1階以上に暗めの空間で、窓からにじむ光をツヤありの床に反射させて空間に拡散し、小屋組を構成する部材を美しく引き立てています。それらはもはや構造上の骨組みという意味を超えてオブジェに昇華しています。
1階のレジカウンター
こちらもシンプルでアノニマスなモルタル仕上。表面は均一ではなく塗りムラを生かすことで骨太の力強い空間にも負けない荒々しさがうまくバランスしています。
カウンターの上にディスプレイされているのは和のお菓子たち
どれも個性的で、空間のセンスに負けず劣らずクオリティが感じられます。
カウンターの足元もセンスを感じるディテールになっています。これらの一つ一つは決して高価な素材ではないのに全く安っぽくなくまとめられており、デザイン感度の高さを感じます。
古い柱梁の接合部と構造補強用の金物の取合せ
部材の粗さからみて、この部分はもともとは天井裏に隠れていたものと思います。ざっくりとした接合部には大工が作り出した力強さがあり、せっかく見せるのであれば、金物などの不純物はつけたくないところでしょうが、それを黒く塗ることで、既製品のもついやらしさをあっさりと消し去っています。
一般の人には目につかない地味な部分ですが、こんな些細なところにも手を抜かずデザインしています。経営センスとデザイン感覚、そして何より地元に注ぐ熱い思いをもったオーナーと、空間にまとめたデザイナーの力を感じる建築でした。