生野屋の家、アトリエ工事状況

 

アトリエのサッシュ、取付完了しました。
 
建主と何度も打合せを重ね、絵画製作に最適な北面採光を実現。
最高高さ3.7mの北壁面にトリプルガラスの樹脂サッシュを
計10箇所はめ込み、均等な明るさと断熱性を両立させています。
 
 
 
 
画集などの本棚が置かれる部分には床補強も施され、
理想のアトリエへ向けて、ひとつひとつ形にしていきます。
 
 

ヘリテージマネージャー養成講座4

 
HM養成講座、今回は構造対策について学びました。
 
まず、櫛ヶ浜の家の改修でも構造解析をお願いした
グリーンデザインオフィスの岩田さんから、
改修事例にもとづいた実践的な講義をいただきました。
 
 
 
 
 
特に強調されていたのが、建物の耐震性を考える場合は
上物だけでなく地盤と一緒に考えることの重要性について。
 
櫛ヶ浜の家でもそうでしたが
昔の家は大した基礎がなく、地面の上にそのまま建っているケースが多いのですが
地盤が弱い場合には、その影響を大きく受けてしまいます。
そのため、しっかり踏んばれるように
強固なコンクリートの基礎を設けることが重要になります。
 
 
 
 
午後からは、関西大学の西澤英和教授からの講義。
ここでも、いかに地盤対策が大事かについて神戸の地震をもとに
説明をいただきました。
 
 
 
 
これは、阪神淡路大震災での活断層と被害の集中した地区を示した図。
(赤い破線が活断層、グレーで囲われた範囲が被害集中地域)
 
この図によると
実際に被害が大きかったのは活断層付近ではなく
それより海寄りの軟弱地盤の土地だったそうです。
 
建物被害については
震度の大きさだけでなく、地盤の影響が大きいことがわかります。
 
 
 
 
これは被害が大きかった三宮にある神戸15番館の倒壊した様子。
建物が跡形もなく崩れています。
 
 
 
 
 
15番館の基礎を実測調査すると、
南北方向に455ミリ、また、上下方向に309ミリも動いたそうです。
 
140㎡ほどのさほど大きくない建物でこれほど地盤が動くのだから
建物の強度だけでは、到底大地震にはかなわないということがわかります。
 
私のメモにあるように
いかに地盤の動きを上物(建物)に伝えないようにするかが重要となります。
 
建物の硬さや強さだけでは、必ずしも建物は守れないこと、
建物の構造にふさわしい構造対策を取ることが大事であることが示されました。
 
それが次の動画です。
 
 
 
これはE-ディフェンスで行われた実証実験。
(実物大の建物を実験室内に建てて、地震動を与えてその影響を検証するものです。)
 
耐震性のやや低い在来構法の建物(手前)と長期優良住宅(奥)を同時に揺らしたところ、
強いはずの長期優良住宅が倒壊してしまったのです。
在来構法の建物は揺れの最初に一瞬足元が浮き上がりますが
それによって地震の力を逃がすことによって倒壊が免れたと考えられます。
 
建物の構造対策を考える場合、
建物の硬さや強度などの性能ばかりに目が行きがちですが
木造が本来持っている復元力のある柔軟な構造こそが大事になるそうです。
 
地盤対策と木造の柔軟な構造、
意外と知られていない構造のポイントを学ぶことができました。
このポイントを、今後の設計にもしっかりと活かしていきたいと思います。
 
 
 
 
 

生野屋の家、外壁下地工事

  

生野屋の家、外壁下地工事が始まりました。
今回、初めて使うエクセルシャノンの樹脂サッシュも入ってきました。
 
 
 
 
サッシュ足元の先張り防水シート
サッシュ取付の前に、サッシュ足元の防水処理を行います。
 
木造住宅では、様々な部材を組み合わせて外壁を構成するため
継ぎ目から雨漏りが起こりやすいという性質があります。
そのため、外壁の仕上げだけでなく、その裏側でも防水処理をする
二次防水という考え方があります。
 
先張り防水シートは、サッシュのパッキンの劣化やサッシュ際からの漏水、
サッシュまわりの結露水から骨組みを保護する目的でつけられます。
 
 
 
 
 
 
サッシュとサッシュ下の先張り防水シートの施工状況。
 
 
万が一サッシュまわりから侵入した水を足元でガード、
外部に排出します。
 
 
 
こちらは、屋根裏通気の通気口(梁の上のすき間)
暑い夏の熱気、梅雨時期や冬場の湿気を含んだ空気を外部に排出します。
 
湿潤で雨の多い日本の気候はくらしに潤いを与えてくれる一方で
建物にとって大敵となる場合もあります。
 
完成してしまうと見えなくなるこれらの下地の処理が
実は建物を長持ちさせるための重要なポイントでもあるのです。
 

坂本杏苑さん、個展

本丁蔵部での開催された
書家の坂本杏苑さんの個展に行ってきました。
 
 初期の作品から今日までの作品が集められ、
作風の変遷も楽しめる趣向になっています。
 
 
 
 
主屋の玄関に掛けられた作品
 
白い画面にモノクロの墨が描く線とにじみによるコンポジション、
坂本さんの心の中にある心象風景が現れているようです。
 
 
 
 
座敷床の間のしつらえ。
 
和の空間にしっくりとはまる掛軸。
それぞれのものたちが響き合う美しい空間です。
 
 
 
 
展覧会の空間構成に使われていた掛軸。
 
「これは作品じゃないんだけど・・・」と言われたのですが
作者の素顔が垣間見えるような自然な雰囲気がとても気に入ったので
坂本さんにお願いして特別に手に入れ、事務所の打合せ室の壁にかけてみました。
 
ときはなる松のみどりも春くれば今ひとしほの色まさりけり
 
古今和歌集の春の歌、
新春にふさわしい風情ともども味わいたいと思います。
 
 

リアルな質感

あけましておめでとうございます。

昨年は櫛ヶ浜にある築95年の町家を再生するプロジェクトにチャレンジ、
耐震性と外部の改修を行いながら、空間に宿る歴史を受け継ぐ改修でした。
 
それは、改修によって空間のもつ意味まで漂白するのではなく、
そこにある時間や記憶の蓄積を未来につないでいくというものでした。
 
最近は、新築だけでなく、リフォームやリノベーションなど
古いもののもつ価値を引き出しつつ、現代と融合していく仕事が増えています。
 
そこには、
時間の経過による味わいや手仕事のもつ表情、生活者の記憶や愛着など
その空間だけに宿るリアルな質感が存在します。
 
我々の生活にはAIやロボット技術が浸透し始めていますが
だからこそ生身の人間が持つ感情や感性を大切にしながら、
リアルな質感にこだわった設計の歩みを進めていまいりたいと思います。
 
本年もどうぞよろしくお願いします。
 

2018.1.5 設計事務所 TIME

週末連載 台湾43

迪化街から5、6分歩いたところにある慈聖宮
このあたりは台北の下町で、庶民の生活に根ざした心の拠り所です。
 
 
 
 
 
 
内部も台湾らしい華やかな色使いですが
祈りの風景には世界共通の「静けさ」も感じられます。
 
 
 
 
 
この廟のユニークなのは、廟の外に小吃店の屋台が張り付いているところ。
心だけでなく、庶民の胃袋も満たしてくれるのです。
 
 
 
 
屋台の料理は境内に持ち込んで食べられるシステムで
聖と俗がクロスオーバーする実に寛容な空気が流れています。
 
ルールは人を縛るためにあるのではなく、
人と人がともに人間らしく生きるためにある。
 
下町の小さな廟に存在する寛容なルールには
がんじがらめになった日本が忘れかけている融通性が存在し
ルールというものの本質を教えてくれるのです。
 
 
 

何気ない風景@下関のロンドン

道路に沿って連なる建築群
 
HM養成講座で田中絹代ぶんか館に向かう途中、
日本らしからぬ風景に遭遇。
カーブする建物の連続が、まるでリージェント・ストリートのようです。
 
 
 
 
それがコレ、
19世紀、産業革命で活気づくロンドンに都市基盤の一つとして計画され
オスマンによるパリ大改造にも影響を与えたと言われています。
 
 
 
 
しかし、
ここにはさすがに「都市計画」の香りが漂いません。
 
 
 
 
改めて周囲を見ると
この建築群、なんと川の上に建っています。
 
 
 
 
ググってみると、一目瞭然。
ちょうど川の方向が変わるコーナーに建っています。
 
川の流れに身をまかせたゆえのカーブには、
自然に身を委ねる日本的な思想があるのかもしれません。
 
果たして思想が深いのか、それとも深読みしすぎなのか・・・
 
 

生野屋の家、棟上げ

生野屋の家、棟上げを迎えました。
 
アトリエの背の高いボリュームと住宅部分の細長いボリュームによる構成が
立体として見えるようになりました。
 
 
 
 
庭側から見たところ。
低く抑えた平屋のボリュームが水平に伸びています。
アトリエまで加えると全幅16.5mの長い家です。
 
 
 
 
棟上げを終えた屋根には棟上げ飾り(幣束)が立てられ、神に捧げられます。
ここにも、古くからのしきたりが息づいています。
 
 
 
 
 
 
上棟式のあとには、餅まきが行われました。
最近は、費用のこともあり、餅まきをすることが少なくなっていますが
祝いの儀式として、みんなが幸せになる光景はなかなかいいものです。
 
そもそも餅まきは「散餅の儀」といって、平安時代ころに始まったことを
工務店の社長が教えてくれました。
餅まきは、災いを祓うとともに、地域のつながりを養う意味もあり
単なるイベント以上に古人の知恵がつまった奥深いものなのですね。
 
 
 

ヘリテージマネージャー養成講座3

 
 
HM養成講座、
土曜日は下関にて近代建築を中心に、歴史遺産について学びました。
 
戦前、海陸交通の要衝として発展した下関には多くの近代建築が建設され、
戦災を免れた建物が今も下関のまちに色どりを与えています。
 
 
 
 
 
こちらは田中絹代ぶんか館。
1934年、旧逓信省下関電信局電話課庁舎として建てられた建物です。
老朽化による解体の危機を市民の保存運動により乗り越え、再生されています。
 
分離派といわれる建築スタイルで
特徴的なパラボラアーチの屋根が当時の逓信省の建築スタイルをよく表しています。
 
 
 
 
 
古典的な柱は庇を貫いて、頂部は切りっぱなしのままに!
理屈を超えた前衛的な表現がとても刺激的です。
 
 
 
 
 
 
それにしてもこの柱、圧倒的なの存在感です。
必要な強度を超えるプロポーションが、デザインの意思を強く表しています。
 
 
 
 
 
 
 
ルネサンス様式の旧下関英国領事館。
保存改修され、現在は市民ギャラリーやカフェレストランとして
市民の拠り所となっています。
 
 
 
 
 
 
そのすぐ近くには、下関南部町郵便局庁舎(左)と旧秋田商会ビル(右)が並んでいます。
 
 
 
 
 
特にこの旧秋田商会ビルはその様式もさることながら
ビルの屋上に緑化された庭園を持っているところが秀逸です。
 
 
 
 
 
1階のホールは洋風スタイル。
柱や梁に施されたモールディング、照明器具など
どれも高いクオリティでデザインされています。
 
 
 
 
 
2、3階は一転して和風のスタイル。
洋館のなかに和の空間が入れ子になった構成が時代の独自性を表します。
 
 
 
 
 
そして屋上には茶室のような座敷が建てられた回遊式庭園、
その時代のユートピアを想像させてくれます。
 
 
 
 
 
左には池もあり、右手のダムウェーター(コンクリートのボックス)で
下階から料理などを運び、特上庭園がサロンのように使われたようです。
 
和洋の混交のみならず、クライアントの創意や文化センスがあふれていて
時代を経た現在も、その強度がこの建物の存在意義を大きく支えています。