ヘリテージマネージャー講座、
今年も座学と実測調査などでスキルアップを図ります。
今回は、山口市の旧山口電信局舎の実測調査を実施。
旧山口電信局舎は明治6年頃、
日本の近代化を進める流れの中で建設されました。
宝形屋根に下見張りの外壁、鎧戸のついた縦長の窓などで構成され
派手さはないですが、端正な洋館の佇まいを今に残しています。
この建物はすでに登録文化財に登録されていますが
関係者のご尽力もあり、売却に伴う解体の危機を逃れ
リノベーションを経て地域資産として再出発する計画があるそうです。
実測調査では当初の意匠を残す応接室から寸法を当たっていきます。
西洋では石を加工して作られることが多い窓枠ですが、こちらは木製で
西洋のオーダーを手本に職人が試行錯誤しながらアレンジしたことが伺えます。
応接室の隣接する和室
こちらはのちに住宅として使用する際に改修されたようで
オリジナルの姿とはかなり違うようです。
建物を残しながら住み継いでいくということは
このようなプロセスも現実としては十分あり得ることで
それ許容していくことも必要となります。
和室の外側は生活の都合か、それとも所有者の憧れゆえか
鎧戸から出窓(しかもアルミ既製品)に改変されています。
このような途中の改変をどう評価するかは
その時々に関わる人々の感性に委ねられますが
個人的には、建物の由来や歴史、意匠や素材の調和を考慮すると
アルミサッシュの形状と質感は調和という観点から違和感がるため
できるならオリジナルに戻していくことがベターではないかと思います。
当初の建物に増築された部分では
増築の接続部分からの雨漏りが確認されます。
建物を後付けする際には、丁寧にデザインと施工をしないと
長く使っていく上では、このようなリスクが発生します。
屋根からの浸水によって床下の湿度が上がり
隣室のたたみにまで影響が出ているようです。
木造の建物にとって、雨漏りやシロアリによる被害は致命傷で
長く使っていく上では、根本的な対処が不可欠となります。
所有者のお話では
今後のリノベーションではこれらの部分を含め
一旦骨組みまで解体して傷んだところを修繕されるようで
この建物に対する愛着と本気度が強く伝わってきます。
建物の寿命は、所有者の考え方次第で変わりますが
物理的な寿命は、手入れ次第で人間の寿命よりはるかに長いのです。
丁寧にデザインし、しっかりと施工された建物は
地域の景観として人の暮らしに定着して歴史を重ね
その地域に暮らしてきた人々の過去と未来を結びつける大切な存在となるのです。
なお、この建物を地域遺産としてまちを盛り上げる企画が
関係者によって10月初旬に行われます。