HM養成講座、宇部編
山口大学感性デザイン工学科の内田文雄先生に
「建築が生き続けるということ」というテーマで講演いただきました。
人口減少に伴う空き家の増加、公共施設の老朽化など
建築を取り巻く様々な問題が浮かび上がる中
質の高い建物を後世に伝え残していくことが課題になっています。
建物はまちや人の歴史や記憶を繋いでいく貴重な存在です。
しかし、使われなくなった建物をただ単に保存するには大きなコストを伴います。
そのため、建物を生かし続けて残していく方策が必要になります。
講演では、内田先生の実践をもとに
生き続ける建築について、貴重なお話をいただきました。
講演の後、
重要文化財となった渡辺翁記念館など、建築家、村野藤吾の作品を視察。
エントランス脇の壁には炭鉱で発展した宇部を象徴する
炭鉱労働者のレリーフが刻まれています。
レトロな雰囲気のエントランスは
映画「ALWAYS 続・三丁目の夕日」のロケにも使われました。
ロビーから2階天井を見上げたところ
手すり壁、柱、天井の照明形状など
力強さの中にも優美な表情も併せ持つ意匠にまとめられています。
階段ホール吹抜けのガラスブロック
改修時に新しいものに変わっていますが
複雑な形状が光を乱反射させながらドラマチックに広がっています。
2階ホワイエの列柱空間
茶色の大理石と磨き込まれたチェック模様の床が華やかです。
ホール内部を舞台から臨んだところ
村野特有の優美な曲線が多用された空間は、音響的にもすぐれています。
ホール背面、円弧壁の連続
舞台からの音をこちらで拡散させる効果を意匠とバランスさせています。
天井の造形とライティング、間接光が優美で美しい。
照明器具も村野によるオリジナルデザイン
一つ一つ丹念にデザインされています。
貴賓室の床
4色の人研ぎ仕上げに大理石がはめ込まれたコンポジション
村野は随所に装飾的な意匠を施していますが
そこには、建築は合理性だけでなく、人の心に響くものでなければならない
という彼の哲学が深く刻み込まれているように思います。
回り階段、巾木端部のディテール(丸く盛り上がっている部分)
ほとんど人が気づかないような箇所も
細心の注意を払ってデザインされています。
全体の空間構成から細部の意匠に至るまで
ひとつとして手を抜くことなく、デザインされたこの建物。
奇跡的に戦災を免れ、その後も市民に愛されながら現役であり続け
これからも長く長く生き続けていくことでしょう。
2018.2.27 設計事務所 TIME