このたびリノベーションされ、尾道の町を見下ろす宿やカフェをもち
敷地全体を公園に見立てた、新たな交流の場として誕生しました。
2回目は玄関からのアプローチ空間をレポートします。
坂を登った踊り場に当たるところにひっそりとした玄関が現れます。
中のアパートは鉄筋コンクリートですが、玄関は意外にも和の雰囲気。
麻紐のような素材を垂らした暖簾が結界をつくっています。
銅製の樋がオープンしたばかりの初々しさを感じさせます。
門の脇にはヒノキ造りのベンチ。
階段の踊り場でちょっと一休みできるこの場は
この施設の懐の深さをうかがわせるような存在です。
門をくぐるとアプローチがまっすぐと奥へ伸びています。
突き当たりに見えるのは大家さんの家だったもので
今後、新たな交流の場として改装される予定だそうです。
カフェや宿へは、その手前で左に折れてアプローチします。
最初に現れるのがこの空間
正面の壁はピクチャーウィンドウのように切り取られ
それに正対するように中央には丸テーブルが配されています。
そして極め付けは天井にとぐろを巻く設備配管。
これらすべてが一体のオブジェのような存在として呼応し
独特の磁場を生み出しています。
ボイドの空間はおおらかに庭やその先の遠景に抜けきって
何もないはずなのに、決して貧しい空間には感じられません。
こちらは宿泊棟裏の空き地
一見、気の抜けたようなこれらの空間は
隅々までデザインで埋め尽くす高級旅館やホテルの庭とは対極的です。
しかし、
ここにはさりげなくも巧みに力を抜いたデザインの妙があり
空間として、デザインとしての余白となって
それが豊かな空間体験につながっているように感じられます。
それはまるで、映画「東京物語」で尾道を描いた
小津安二郎の空気感にどことなく通ずるところがあるのかもしれません。
2018.12.14 設計事務所 TIME