中之島、まち並みの過去と現在

早朝の中之島と堂島川
 
大阪の中之島界隈を視察してきました。
次々に高層化が進む大阪の中心部のなかでも
都市の余白として、ゆとりを感じられる貴重な場所です。
 
 
 
 
 
 
 
日本銀行大阪支店
 
中之島には歴史ある建築がいくつか残っていて
現代の高層ビル群の中に威風堂々とした佇まいを見せています。
 
 
 
 
 
 
 
中之島公会堂
 
ネオ・ルネサンス様式を基調にした外観はとても表情豊かで
この建築があることによって中之島の個性が明確になっている気がします。
 
 
 
 
 
 
 
三井住友銀行大阪本店
 
大正末期から昭和初期にかけて建設された建物は
端正なプロポーションで抑制の効いたデザインですが、
外壁に使われた竜山石が重厚感のある端正な表情を見せています。
 
 
 
 
 
 
 
ダイビル本館の入口ファサード
 
1925年に建設された8階建てのダイビル、
ネオ・ロマネスクの美しいデザインで長く愛されてきましたが
平成の再開発で2013年に22階建ての高層ビルに建て替えられました。
 
様々な保存を望む声に応え
堂島川側の外観は、建替前の建材を再利用して忠実に再現されたそうです。
 
 
 
 
 
 
 
 
旧ダイビルの外観を再現した低層部分とセットバックしてそびえる高層部分
 
東京の歌舞伎座や中央郵便局などと同様のデザイン手法で
元の建物の外観を台座のようにしてその上に現代的なガラス張りの建築が載る形になっています。
 
 
 
 
 
 
 
 
中之島も再開発によって高層化が進み、まちの姿がどんどん変化してきましたが
そんな中に、この春、低層の新スポットがオープンしました。
 
周囲の高層ビルに挟まれるようにして建つ、漆黒のオブジェのような建築で
ぽっかりと空いた空がこの場に固有の磁場を生み出しています。
 
 
 

フリッツハンセン庵

苔玉ならぬ苔エッグ
 
入口の脇に置かれているのはアルネ・ヤコブセンのエッグチェア。
全面、苔で覆われたデザインはフラワーデザイナーのニコライ・バーグマンによるもの。
フリッツハンセンのコラボにより実現したそうです。
 
瀬戸内国際芸術祭が行われている本島、
笠島地区の古民家でフリッツハンセン庵が同時開催されています。
 
 
 
 
 
 
室内はいわゆる田の字型プランの座敷で
建具を取り払い、杉の床板を敷き詰めた中に
フリッツハンセンが扱う北欧家具がアレンジされています。
 
 
 
 
 
 
通り沿いの建具は開放されていて
落ち着いた室内とともに、気持ちのいい空間になっています。
 
 
 
 
 
 
 
 
アルネ・ヤコブセンのエッグチェアとスワンチェア
中央の照明はシドニーのオペラハウスを設計したヨーン・ウッツォンがデザインしたもの
 
北欧家具や照明の名作がさりげなくコーディネートされています。
 
 
 
 
 
 
屋根裏へ上がる梯子ごしに見たところ
 
年季の入った梯子や竿縁の天井などと北欧家具がしっくり馴染んでいて
古民家の和の空間に違和感なく調和しています。
 
 
 
 
 
 
モダンなアントチェアの細い脚と床の杉板の取合せ
 
 
 
 
 
 
 
杉の生地と黒のラグ、そして革製のエッグチェア
 
木や土、紙などの自然素材を使い、その素材感を生かした日本家屋と
暮らしに根ざし、洗練されたシンプルなデザインの北欧家具。
 
日本と北欧というまったく別々の場所で生まれたデザインながら
素材感を生かした無駄のない抑制されたデザインは互いに共鳴し合い、
快適で居心地のよい、タイムレスで持続性の高いデザインです。
 
 
 

塩飽大工の技、吉田邸

塩飽大工の技が光る吉田邸
本島の笠島地区に残る築100年の住宅です。
 
中世から塩飽水軍は海運業とともに船大工の技量も高く
江戸時代以降、建築の大工技術へと引き継がれていきました。
吉田邸は、その塩飽大工が技術の粋を存分に生かしてつくった住宅です。
 
 
 
 
 
 
庭に面した開放的な座敷
 
正面には昇天する龍に見立てた松の木があり
開口によって象徴的に切り取られています。
 
 
 
 
 
 
 
庭に面した内縁の床板は長手方向に継ぎ目のない一枚物。
軒を支える軒桁も長さ12mの一本物で贅を尽くしています。
 
庭に面する開口部は柱間もかなり広くとっていますが
骨組の狂いもなく、今でもスムーズに建具が開け閉めできるそうで
塩飽大工の技術力の高さがわかります。
 
 
 
 
 
 
付書院の障子もとても繊細な組子で、指物師の技術の高さも目を引きます。
 
 
 
 
 
 
座敷の欄間には一つ一つ形の違う刀の鍔が千鳥に埋め込まれていて
ここにも趣向を凝らした大工の技が見て取れます。
 
 
 
 
 
 
トイレの便器はなんと染付の焼き物製です。
足を置く場所も陶器でつくられ、床は白黒の市松模様にデザインするなど
隅から隅までこだわり抜いています。
 
現在は人口280人ほどの静かな島ですが
塩飽大工の技が息づく吉田邸は
この島が栄えた時代の姿を今に伝えてくれます。
 
 
 
 

瀬戸内国際芸術祭

船型のオブジェの先に瀬戸大橋が見えます。
 
瀬戸内国際芸術祭へ行ってきました。
児島港から船で30分、
今回は、瀬戸大橋の西側に位置する本島へ
 
 
 
 
 
 
 
浜辺に打ち上げられた難破船のようなオブジェが
不思議と風景に溶け込んでいます。
 
 
 
 
 
 
 
こちらは江戸時代からの集落が残る笠島地区
 
本島は香川県と岡山県にはさまれた備讃海峡に点在する島々からなる
塩飽諸島の中心にあり、塩飽水軍の本拠地でした。
 
織田信長や豊臣秀吉の時代から自治が認められ
廻船業で栄え、その後、大工技術で名を残しました。
 
笠島地区は瀬戸内の島特有の風情のあるまち並みで
昭和60年に重要伝統的建造物保存地区に指定されています。
 
 
 
 
 
 
 
平入りの屋根に虫籠窓をもつ伝統的な町家が軒を連ねており
 この町家の幾つかを舞台に現代アートが展示されています。
 
 
 
 
 
 
空き家となった家を大胆にアレンジしたアート作品
 
良質な石の産地としても知られるこの島にちなんで
石をテーマにした円形の大理石で表現されたインスタレーションが
ほの暗い、いにしえの空間の中、象徴的に浮かび上がります。
 
 
 
 
 
 
 
こちらも石を使ったインスタレーション
 
今度は石が宙を舞う惑星の軌道をイメージする作品で
旧家の座敷を宇宙に見立てるという大胆な発想です。
 
瀬戸内の静かで穏やかな島を舞台に
古い町家と最新のアートが刺激しあい
時空を超えた懐かしくも新鮮な体験が展開しています。
 
 

社会実験@御幸通

公園になった御幸通
 
道路を移動空間だけでなく滞在空間として使えるようにする、
国が進める通称「ほこみち制度」による社会実験が行われました。
 
1日限りでしたが、昨日は天気もよくとても過ごしやすい気候で
幅50mの駅前大通りが市民に開放されました。
 
車が入ってこない広い通りは穏やかで、かつなにより安全で
子供を連れた家族連れで賑わい、お年寄りもゆったりと過ごしていました。
 
 
 
 
 
 
 
通りにはイスとテーブルが置かれ、キッチンカーも3台出店、
御幸通のシンボルツリーであるヒマラヤスギがつくるほどよい木陰で
のんびりと過ごす、気持ちのいい時間でした。
 
 
 
 
 
 
 
キッチンカーも好評のようで行列ができることも。
 
 
 
 
 
 
御幸通は太平洋戦争の空襲で焼け野原になったまちの中心に
戦後復興事業の象徴として生み出された通りです。
 
車が今ほど多くない時代に計画された幅50mの通りは
地方ではまだ珍しかった街路樹のある豊かな街路です。
 
経済成長とともに車社会に対応してきた大通りは
環境の時代を迎え、車から人へと変化する兆しが見え始めています。
 
周南市の戦後復興を支え、歴史遺産でもあるこの通りが
近い将来、本当の公園になることを期待したいと思います。
 
 

御幸通が公園に!

徳山駅前から北へ伸びる御幸通が1日限定で公園に!
 
周南市中心市街地活性化協議会の主催で社会実験が行われるそうです。
 
御幸通の中央部分に天然芝の公園にして椅子やテーブル、ハンモックが置かれ
のんびりとくつろげる場所を生み出します。
コーヒーや軽食のキッチンカーも出店するそうです。
 
車社会で駐車場や車道ばかりになってしまったまちを
人のくつろげる場所に変えていこうという、新たな試みです。
 
当日は天気もよさそうです。
まちなかでの新しい日常の体験へ、出かけてみてはいかがですか?
 
 

岡山芸術交流3

岡山市のまちや名所を巡ってアートを鑑賞する岡山芸術交流
最後は、まもなく改修を終えて公開を控える岡山城へ
 
 
 
 
 
 
岡山城西の丸に展示されたアート作品
池田亮司によるサウンドインスタレーション
 
横長の巨大なスクリーンに
音と映像によるデジタルアートが表現されています。
 
 
 
 
 
 
様々な映像が刻々と変化していくスクリーン
 
江戸時代の月見櫓や大樹を背景にしたデジタルアートは
新旧のコントラストが明快で、とてもクールです。
 
 
 
 
 
 
横から見たスクリーン
 
スクリーンにはフレームがなく
周りの風景とシームレスにつながっていて、エッジがとてもシャープです。
 
 
 
 
 
 
 
アップで見るとエッジのシャープさがよくわかります。
 
音と映像によるデジタルアートはとても大きな情報量がありながら
物理的な厚みや質量感が感じられず、なんだか不思議な感覚です。
 
3回目となる今回の岡山芸術交流、
欧米以外からも多数のアーティストが参加しています。
コンセプトや表現が多彩でクオリティも高く、充実した芸術祭です。
 
岡山芸術交流は11月27日まで開催されています。
11月3日にはリニューアルされた岡山城も公開されるので
アートや建築に興味のある方は、この機に出かけてみるのもよいでしょう。
 
 

岡山芸術交流2

金色の鈴を束ねた長さ10mの作品
 
オリエント美術館に展示されたオブジェは床から数ミリ離れていて
上から吊るされていることに気づきます。
 
改めて研ぎ澄まされた繊細さを感じます。
 
 
 
 
 
 
見上げるとこの美術館の中央を貫く吹抜け空間の中心に合わせてあり
重厚なコンクリートの空間と繊細な金属の鈴が一体となった空間になっています。
 
 
 
 
 
 
美術館の2階から吹抜けを見たところ
 
岡田新一の設計による美術館は古代オリエント美術を展示しており
外部とは遮断された閉鎖性の高い建築空間です。
 
中央の吹抜け空間は幾何学的な洞窟のような空間に
天窓からの光が表情豊かな陰影を作り出しており
改めて、並々ならぬ情熱をかけてデザインしたことがわかります。
 
 
 
 
 
 
後楽園の観騎亭
江戸時代、藩主がこの場所で家臣の乗馬の上達ぶりを眺めたそうです。
 
日頃は非公開ですが、今回の芸術祭の会場として
建物も公開されていました。
 
 
 
 
 
 
寄棟の小屋組が現しになった天井の下は実に開放的な空間で
内外がつながる日本建築特有のとても気持ちのいい空間です。
 
 
 
 
 
 
作品は機械じかけで円状に砂紋が描かれるもので
小さなモーター音と砂を引きずる音がたえず繰り返し
時間の永遠性と形の一過性が同時に感じられます。
 
 
 
 
 
 
後楽園に来たなら、やはり流店を見ないわけにはいきません。
旭川から引いた水は巧みにデザインされた水路によって
この建物の内外を巡っています。
 
 
 
 
 
 
建物の中を貫く水の流れと飛び石
 
作られた時代は古いものの、空間デザインは実に独創的で
その斬新さは現代アートに引けを取りません。
 
 
 
 
 
 
 
外観も驚くほどの軽やかさです。
特に1階はほとんど壁のない透ける空間で
デザインの面でもとても刺激になる建築です。
 
 
 
 
 
 
 
よく手入れされた庭園と秋の空
 
アートと自然はとても相性が良く
日常ではなかなか味わうことのできない心地よい時間を与えてくれます。
 
 

岡山芸術交流1

秋らしい季節がやってきたということで
岡山芸術交流と瀬戸内国際芸術祭をはしごして
アートの刺激をたっぷり浴びてきました。
 
1日目は今回で3回目の開催となる岡山芸術交流
岡山市の市街地や岡山城、後楽園などの景勝地を舞台に
まちぐるみで散策できるアートイベントです。
 
 
 
 
 
 
滑り台のある遊具のようなオブジェとライブイベント
 
最初にやってきたは旧内山下小学校
岡山城の西の丸跡地に建てられた小学校で
現在は廃校になっていますが、毎回アート展示が行われています。
 
体育館にあるこの作品、
手前のパフォーマンスと奥のオブジェに関連はありません。
 
ドラム缶を土台にしたステージでは
毎日様々な出演者がパフォーマンスを行います。
 
後ろのオブジェでは実際に滑り台を滑ることができて
ちょうど白人のカップルが滑り台を体験しているところに
手前のパフォーマーが「青い珊瑚礁」をシャウトしているという図。
 
なんともシュール・・・
 
 
 
 
 
 
 
教室を舞台にしたアート
 
窓一面にパンチングされたスクリーンがはめられていて
外の景色や光が制御された教室は非日常の空間へ昇華。
 
既存の長い洗面台もなかなかいい味があり、アートと一体化しています。
 
 
 
 
 
 
 
緑豊かな学校の中庭
 
昭和9年に建てられた鉄筋コンクリートの校舎、
初期モダニズムの匂いが香る渋さが魅力的で
現代アートの会場としてとてもしっくりはまっています。
 
 
 
 
 
 
 
旧西の丸庭園を背景にしたアート
モノクロのスクリーンに幽霊のように映り出す人影が
庭園を不思議な世界に変容させます。
 
 
 
 
 
 
 
校舎の階段
 
これはアート作品ではありませんが
踊り場の窓からにじむ光に照らされたモルタルの階段や腰壁は
モノとしての存在感がもはやアートです。
 
 
 
 
 
 
 
こちらも校舎の廊下です。
 
校舎の壁天井は基本的に白く塗られた空間で
アクセントカラーの入口ドアがほどよいアクセントになっています。
 
ハンチのついた現しの梁や露出した電線管もリアルで
空間にいい表情を与えています。
 
 
 
 
 
 
こちらの教室は空間全体に黒板塗装が塗られた深緑の異空間です。
 
先生と生徒は透明またか空っぽで服だけが見えていて
声や音もなく、動きもない静寂な空間にもかかわらず
おしゃべりが聞こえるようで、想像力をかきたてられます。
 
 
 
 
 
 
 
教室の窓から校庭を見下ろしたところ
 
3年前の会場は一面、土のグラウンドでしたが
今回は全面に芝生が敷き詰められ、芸術祭のテーマである
DO WE DREAM UNDER THE SAME SKY の文字が表現されています。
 
 
 
 
 
 
 
プールに巨大ぬいぐるみ!?
 
巨大なクマのぬいぐるみが大の字に横たわっています。
最初は、死んでいるのかと思ったのですが、どうも服従のポーズのようです。
 
頭についたピンクのリボンにグレーのパンツが
ぬいぐるみの愛らしさに性的なイメージを重ねた倒錯した表現が
インパクトとともにアートとしての強度が感じさせます。
 
まだ最初の会場を見ただけなのに
すでに感性を大きく揺さぶられています。
 
 

アノニマスな存在感

KATACHI museumに展示されているおろし器たち
 
金属製や木製にハイブリッドなものまで
おろし器一つとっても実に多様なかたち(デザイン)があります。
 
 
 
 
 
 
こちらの金属製のおろし器はポンチのようなもので
間隔をあけて穴が開けられています。
 
しかし、その穴たちは必ずしも同じ間隔ではなく
それなりに適当なズレがあります。
 
 
 
 
 
 
木製のおろし器
 
板のかたちはかなり大雑把です。
 
庶民が使う道具なので、そこに美意識は必要なく
安価に作れる道具としての必然性がそのままかたちになっています。
 
そこには、
正確につくられる工業製品とは違う素朴さや温かみがあり
ただの道具なのにアノニマスな、ものとしての存在感があります。
 
 
 
 
 
 
工業製品にはない素朴さという意味では
大津島の石柱庵もそれに通ずるところがあります。
 
100年以上前、切石を柱に、木の丸太を梁に使い
掘っ立てたような倉庫だったこの空間。
 
そのアノニマスな空間は茶室として読み替えることで
現代建築では表現できない独自の存在感が生まれています。