山口県庁の旧県会議事堂での講演会に行ってきました。
山口県の旧県庁舎・旧県会議事堂創建設計に携わった武田五一。
その彼が同時期に設計した東京の求道会館と求道学舎。
今回、90年近く経過して荒れ果てた建物がいかに再生を果たしたか
その所有者でかつ設計者でもある近角真一氏に講演頂きました。
自身の祖父の代に建てられた求道会館と求道学舎、
時代の荒波にさらされ、その存在価値が失われかけ
再生するにも膨大な費用がかかるという困難な課題を抱えていました。
苦慮を重ねた結果、
求道会館は東京都の文化遺産(ヘリテイジ)という新たな価値を得て保存再生され、
求道学舎は趣あるコープラティブハウスとしてリノベーションされました。
こちらのサイトを参考に
求道会館
求道学舎
近角氏の話で印象に残ったのは、
コストや省エネと文化的価値のバランスについて
元の建物の文化的価値をきちんと残そうとすると新築と同じくらいコストがかかること
コストだけで考えれば、割安な材料と工法でコストを抑えることは可能でも、
その記憶や文化的価値を維持しようと思えば、それ相応の覚悟も必要です。
それは、短期的な価値とはならないけれど、長期的な価値を生み出すものなのです。
省エネの考え方については、
断熱性能を現代のものに合わせると元の建物に忠実に改修することが難しいが
建物を建替えずに、寿命を延ばすことでエネルギー消費を抑えるという考え方があること。
(実は、日常のエネルギー消費より、建物の建替えにかかるエネルギーがはるかに大きい)
今回の事例は、設計者自身が所有者であり、
建物に対する並々ならぬ思いや情熱がこの困難な事業を
最高の形で成し遂げることを可能にしたと言えるでしょう。
そして、それによって
我々にとっての貴重な財産を未来に残すことができた奇跡的な事例です。
2016.10.3