人と動物、共に暮らす場

大分の臼杵の家が完成して、この秋で3年になります。

最近、猫2匹が家族に加わり、猫用のステップとともに、元々飼っているゴールデンレトリバーの段差昇降用にステップをつけるご相談をいただきました。

現在、猫や犬などを飼っている世帯は日本全体の25%あるとの統計もあり、人と動物が共に暮らすというライフスタイルが当たり前の時代になりました。一方で、農業が主体だった時代には、家の一部に家畜小屋が一体化していたこともあり、必ずしも特別なことでもないのかもしれません。建築的には、岩手の曲がり屋など、ひとつの様式になっているものもありました。

ということで、新たな時代の同居のあり方をイメージしつつ、人も動物も生き生きと暮らせる場を検討中です。

写真はお施主さんから送っていただいたお店の入り口部分ですが、どこか日本離れしていて、ナポリやシシリアの旧市街を想起してしまいました。

経年変化が進みつつある銅板の引戸や杉板の風情がなんとも渋い。      いや、すでに渋すぎです!

設計当初から経年変化を楽しみたいと言われていたお施主さんのご希望だった姿が少しずつ立ち現れていて、今後の変化がまた楽しみです。

 

 

臼杵の家、新聞掲載

一昨年の秋に完成した大分県の臼杵の家
このたび大分合同新聞の住宅特集にに掲載されました。
 
周南市からは車で約4時間、設計から完成までに2年余り、
長い時間を感じるプロジェクトゆえに、とても思い出深い仕事でした。
 
先日、建築家の磯崎新氏がご逝去されましたが
大分県は礒崎氏の出身地で県内にも幾つかの代表作を残されています。
 
その礒崎氏の薫陶が根付いているせいか
大分県内には建築に対する意識の厚みのようなものを感じます。
 
改めて、彼の地にて設計した建物がこのような形で
取り上げられたことに感慨を覚えます。
 
 

臼杵の家 訪問

臼杵の家が完成して半年が経ちました。
植栽の新芽も芽吹き始めたところで、写真撮影も兼ねて伺いました。
 
 
 
 
 
 
 
水平線を強調した建物に樹木が加わり、少しずつ風景が育ち始めています。
 
 
 
 
 
 
5年もすれば樹木が成長し、地域に溶け込む風景になりそうです。
 
 
 
 
 
 
室内もカフェとしての設えが整い、さらに雰囲気が出てきました。
 
 
 
 
 
 
水平スリット窓越しの風景
樹木の緑が加わり、こちらも潤いが増しています。
 
 
 
 
 
 
建具を全開放した中庭
板壁を背景にしたこの場所も静かな美しさが現れています。
 
建主のこだわりによって建築の味わいにさらに深みが加わり
この場所で過ごす時間が豊かに進化していくことを期待しています。
 
 

臼杵の家、外観

 
臼杵の家の外構工事が完了して
工務店(住想)が写真を送ってくれました。
 
手前にある地区の広場にゆるやかにつながる半開放性のある佇まいです。
 
 
 
 
 
 
ドローンを駆使した真上からの写真、
グーグルマップのようです。
 
 
 
 
 
 
 
木々はまだ植えたばかりで小さいですが
数年のうちに大きく育ち
家にも地域にも溶け込む心地よい風景をつくってくれることと思います。
 
 

臼杵の家、外構工事

先週末、臼杵の家の外構工事の立会いに行ってきました。
いよいよ工事も最後の仕上げとなりました。
 
植木の植付けや飛び石の据付にあたり、
植木同士の間合いや樹木の向き、飛び石の細かい配置など
建主にも一箇所ごとにご確認いただき、配置を微調整し
位置が決まったところで、監督と職人さんに位置の調整など
一つ一つ対応していただきました。
 
 
 
 
 
元々敷地の縁石や井戸に使われていた地元産の凝灰岩があり
廃棄するのももったいないので、外構の飛び石などとして
アレンジしました。
 
凝灰岩の切石は、工業製品のような硬いメージとは違い
風化した石の表情がとても渋くて味わいがあります。
 
 
 
 
 
 
縁石は道路から建物中央の中庭へのアプローチとしてアレンジ。
 
一つ一つ形の違う石を単調かつ不自然にならないようデザインして
並べてもらいました。
 
 
 
 
 
こちらは新たな生活が始まったリビングです。
 
まだ仮の状態とのことですが
家具などのセンスがよく、十分に心地よい雰囲気が現れています。
 
 
 
 
 
リビング奥のたたみコーナーは
バイオリンを習っている息子さんの練習場所として
最適な場所になっているようです。
 
 
 
 
 
工事が行われている間、
ご主人が作られた酒粕チーズバスクケーキをいただきながら
カフェの家具などについて打合せを行いました。
 
 
 
 
 
工事は丸々一日かかりましたが
夕暮れ時に概ね主要な部分が仕上がりました。
 
冬を越し、来年の春の新緑や秋の紅葉など
樹木の成長とともに、風景が育っていくのが楽しみです。
 
 

臼杵の家、耐震調査と完了検査

 

臼杵の家では、建物の工事がほぼ終了し、
改めて完成後の耐震性能を常時微動計測機によって調査しました。
 
中庭をはさんだ2棟とも結果は良好で
地盤との共振に対しても安全であることが確認できました。

 

 

 

翌日には、検査機関による完了検査が行われました。
ダイニング側はまだ美装前で養生が残っていますが
建主こだわりの照明器具が入って、とてもよい雰囲気です。
 
 
 
 
 
 
リビングルームは養生もとれて、綺麗に仕上がっています。
引き渡しに向けて、これから最後の仕上げを進めていきます。
 
 
 

版築壁と薪ストーブ、そしてモルタル

臼杵の家、中庭の版築壁は型枠が解体されて
仕上がった壁が現れました。
 
まるで地層がそのまま現れたような壁は
土のリアルな素材感を持ちながら、抽象的なアートのようにも見えます。
 
とても存在感があるのに、不思議と静けさが漂う壁を前にすると
何か、心が穏やかになる感じがします。
 
 
 
 
 
室内には薪ストーブが据えられ
奥に見えるヴィンテージのカウンターとともに
この空間の濃度が一気に高まってきました。
 
 
 
 
 
 
水回りの空間は洗面台も含めてモルタル仕上げ
やや大きさを絞った窓からの光を受けて
陰影の深い表情がなかなか渋いです。
 
 
 
 
 
 
リビングのミニキッチンもモルタル仕上げ
職人さんが丁寧に仕上げてくれています。
 
こちらも軒が深く、抑制された光の中で
モルタルの質感が引き立っています。
 
 

版築壁工事その他

臼杵の家で版築壁の工事が始まりました。
まず、コンクリート基礎の上に型枠を建て込んでいきます。
 
 
 
 
 
 
真砂土にセメントと顔料を加えて攪拌。
水を加えながら最適の粘度に調合していきます。
 
 
 
 
 
 
攪拌された土は結構粗めで水気があまりないように見えますが
手でギュッと握って水分が染み出すくらいの粘度が最適なんだそうです。
 
 
 
 
 
 
顔料は4色あって少しずつ濃さが違うそうです。
これらを各層ごとに変えることで地層のような独特の表情が現れます。
 
ちなみに、どんな順番の組合せにするのか聞いたところ
返ってきた答えは、適当!(笑)
 
 もちろん、頭の中にはイメージがあるのでしょうが
経験からくる直感が一番間違いないのかもしれません。
 
 
 
 
 
 
攪拌された材料は粒の粗さもいろいろで
これによって自然な表情が生まれます。
 
 
 
 
 
 
 
材料を型枠の中に流し込んで、上から突いていきます。
 
 
 
 
 
 
型枠1段目をある程度突き終わったところで鉄筋を継ぎ足し
2段目の型枠を建て込んでいきます。
 
 
 
 
 
 
室内ではキッチンのステンレス天板の取付が進行中。
 
 
 
 
 
 
ヴィンテージの家具も準備が整ったところで定位置に据え付けです。
 
 
 
 
 
家具の中にコンセントを組み込むため
巾木部分に配線用の穴を開けています。
 
 
 
 
 
こちらはディスプレイ棚のしっくい仕上げの最終段階です。
 
 
 
 
 
 
一通り家具が据えられて室内の雰囲気がだいぶ整ってきました。
来週にはここに薪ストーブが搬入される予定です。
 
 
 
 
 
版築壁の工事2日目。
残り1.7mほどの高さをひたすら突いていきます。
 
ちなみに1層の厚さは10センチ前後、
全部で24層になるそうです。
 
 
 
 
 
中庭側から見た施行中の風景、
この時点で2/3程度まで上がってきました。
 
 
 
 
 
ついに上まで突き終わり、天端を均して終了です。
1週間ほどこの状態で置いたのち、型枠をバラす予定です。
 
少し大げさに言えば、世界でここだけにしかない唯一無二の版築壁、
出来上がりの表情が楽しみです。
 
 
 
 

版築壁の現地確認

臼杵の家では、
建主のご希望で中庭の仕切り壁を版築でつくることになりました。
 
版築というのは、土を突き固めて基礎や土塀にしたもので
近代以前には寺院や貴族の館などの外塀として使われてきました。
しかし、経済性やスピード優先の現代では、工業化も進み
機能的な塀として版築が使われることはほぼなくなりました。
 
手間暇かかる版築ですが、
スピード優先の工業製品では出せない味のある表情が魅力です。
 
唯一無二の壁をつくるために、建主や工務店と検討を重ねた結果
この一品だけは長門の福田さんにお願いすることになりました。
 
時期も時期だけに、感染対策を徹底した上で
材料の搬入を兼ねて現地で打合せを行いました。
 
 
 
 
 
 
壁の高さが2m以上あるため、
2トン車いっぱいに積まれた土は全部で80袋、
1枚の壁にこれほどの土が必要とは、ちょっと予想外でした。
 
材料を降ろした後、現場で細かい寸法等の確認を行い
工事の日程も決まりました。
 
 
 
 
 
 
こちらはキッチン収納に使うカウンター用の無垢材
 
現場に向う途中、
中津の建具屋さんに立ち寄って確認してきました。
3.6mの長さがとれる無垢材が必要なため
提示していただいたのがバルサムという北米産の白木です。
 
 
 
 
 
 
 
カンナで削るとこのような表情でクセの少ない淡い色合いの木目です。
しっかり乾燥した材で狂いも少ないとのことで建主にもご了承いただき、
この材料で進めることになりました。
 
 
 
 
 
 
キッチン周りに据える造付の家具たちも順調に製作が進んでいるようです。
 
 
 
 
 
 
現場にはキッチンの顔となるカウンター家具が運び込まれていました。
 長さは4mもあるフランス製のビンテージです。
 
主役となるこの家具にふさわしい空間となるよう
平面プランと構造計画を何度も練り直してこの場所が用意されました。
 
 
 
 
 
 
ダイニングキッチンでは、壁のしっくい工事が進んでいます。
左官屋さんが塗っているのはディスプレイ用の棚。
 
細長く入り組んだ棚全体をコテで仕上げるのはけっこう面倒ですが、
一つ一つ時間をかけて仕上げていただいています。
 
 
 
 
 
 
リビングに据えられたミニキッチン。
こちらは全面モルタルで仕上げます。
 
この家の仕上げはほとんどが工業製品ではない職人による手仕事です。
その分、時間と手間がかかってしまいますが
その一つ一つの積み重ねが、ここでの暮らしを豊かに包み込み
経年変化とともに豊かな時間を提供してくれるでしょう。