櫛ヶ浜の家
category: house
location: 山口県周南市
site area: 351m²
floor area: 174m²
completion: 2017.12
周南市の櫛ヶ浜地区は太平洋戦争での戦禍を免れ、現在も古いまち割の中に白壁の旧家がいくつか残っている。その一つとなる築95年の町家を再生するプロジェクトである。
大正時代に建てられた家は木割が細く、経年劣化によって全体に歪んでいた。床高も低く、シロアリ被害を受けて中央の柱足元が座屈し、2階の床が中央に沈み込む苛烈な状況である。その他、数カ所の雨漏りで、柱や梁が腐食。普通であれば建て替えるのが当たり前のこの時代、歴史を経た家の風情と記憶を残したいという建主の強い思いを受けて、耐震補強と歪みの矯正を施して、この家を再生することになった。工事では、予算の都合上、機能と性能を確保することに集中。耐震補強と外部の修繕、付随して生活空間を確保するため一部に増築を行った。その結果、内部は耐力壁を新設した以外はほとんど古い仕上げのままであるが、そこにはリアルで懐かしい風情がありのままに生きづいている。
古いことは新しいことに劣るとする現代の観念は、必ずしも正しいとは言えないであろう。「古さ」は「新しさ」とは別の価値を持ち、しかも、さらなる時間の経過でその価値は高まっていく。それは、現代社会が必ずしも掴みきれていない、「新たな豊かさ」と言ってよいだろう。